製造系 ニッチトップの強み手に職がつく仕事 株式会社特発三協製作所
薄板ばねって、奥深い!~特発三協製作所を材料好きな理系学生が訪問~
インタビュアー
松村史音 京都工芸繊維大学 工芸科学部 生体分子応用科学課程4年生
京都工芸繊維大学工芸科学部生体分子応用化学課程4年生。大学では高分子材料やゴムを研究中。
インタビュイー
片谷 勉 社長
特発三協製作所代表取締役。IT系企業のSE・営業職を経て1996年入社、2002年より現職。同社は1959年に創業し片谷社長で3代目となる。
※肩書・プロフィールは取材当時のもの
身近な製品に使われる薄板ばね
兵庫県尼崎市にある薄板ばねのトップメーカー特発三協製作所を訪れたのは、京都工芸繊維大学で高分子材料やゴムを研究する松村史音さん。化学が好きで、物質の変化に関心がある。「金属は潰れたら元に戻らないはずなのに、ばねはどうやって弾性(元に戻る力)を得ているんだろう?」、そんな疑問を胸に社屋を訪れた。「町工場っぽくてかっこいいですね」と興味津々だ。
出迎えた片谷勉社長が見せてくれたのは、さまざまな種類のばね。薄板ばね、コイル、ウェーブワッシャー、皿ばね・・・・・・。ばねといえば螺旋状のコイルばねが思い浮かぶが、その形状は多種多様。素人目には、それがばねなのかわからないものも多い。
片谷社長は「ばねの定義はたわみをエネルギーとして蓄積し、解放時にそれを放出するもの」と教えてくれた。特発三協の主力製品である薄板ばねも、金属板を曲げて作るばねの一種で、自動車やガス給湯器といった身近な製品に使われている。ばねは「止める」「固定する」「引っ掛ける」といった機能をもっており、用途も機械の動作を円滑にするものから、組み立ての利便性を高めるものまで幅広い。
松村さんは薄板ばねが組み込まれた部品を手に「ばねだけ見ると用途がわからないけれど、片谷社長のお話で納得しました。身近な製品に欠かせない、重要な部品なんですね」と感心する。
加工のひと手間で物性が変わる
材料を打ち抜き、曲げ、必要に応じて熱処理をして作られる薄板ばね。その性能は金属の種類や厚み、熱処理の有無で変化する。ばねの力は計算式でおおむね求められるが、実際には材料の厚みにわずかな誤差があるだけで大きく変化する場合もある。だからこそ特発三協では、顧客が求めるばねを形にするために、試作を重要視している。 松村さんが特に興味を持ったのが熱処理だ。ばねの材料になる炭素鋼はもともと柔らかく加工しやすい素材だが、熱処理後は組織が変化して弾性が上がり、硬くしなやかに変化する。
「僕が専門にしている高分子材料でも急冷の仕方で物性が変わると学びましたが、金属でも同じことが起こるんですね」と驚く松村さん。片谷社長が刀鍛冶を例に説明してくれた。
「刀鍛冶が真っ赤に焼いた刀を水に入れて急冷するでしょ? あれで結晶構造が変わる。昔の人はそれを見た目だけで判断したけれど、今は炭素鋼の規格ごとに何度まで上げてどう急冷すれば弾性が上がるか、科学的に解明されているんです」。
それを聞いて松村さんは目を輝かせた。「思っていたよりも工程がすごく複雑で精密。材料の厚みの誤差で結果が変わってくるとは驚きました」。
仮説と検証を繰り返す
その後、片谷社長の案内で工場を見学。製造機械が次々にばねを生産する活気ある様子を目にした。松村さんは多くの工程が自動化されていることに驚きつつ、「大量に生産するから品質のブレが許されない。実験とは違いますね」。金型が重要な役割を 果たしていることも印象に残ったという。
実は松村さん、現在は将来の仕事についても考え中だ。大学で学んだことを活かせる仕事を探すべきだろうか? そんな松村さんの質問に、片谷社長は 「もちろん、ばねの研究に強い大学というのもあるけれど」と前置きしつつ、こんな風に話してくれた。
「うちの会社では文系理系問わずいろんな人が働いています。ばね製造に必要な知識は中学・高校の物理や化学で習う原理原則がほとんど。入社後に初めて学ぶ部分も多いのです。社員に求めるのは、仮説と検証を繰り返す力です。理系出身の人なら、実験で培った仮説検証力は武器になる。それはものづくりに欠かせない力です」。
なるほど、科学的思考法が身についていれば、活躍できる場はたくさんある。薄板ばねの奥深さを知るだけでなく、将来を考える松村さんの視野も開けた取材となった。