製造系 ニッチトップの強み手に職がつく仕事 株式会社 特発三協製作所
京都美術工芸大学のユニークなキャリア教育【前編】 なにかをつくるときは完全に自由が好き?それともルールまたは注文があるほうが好き?
インタビュアー
呉 玲奈 『おっちゃんとおばちゃん』副編集長
インタビュイー
片谷 勉 株式会社 特発三協製作所 代表取締役
兵庫県出身。大学卒業後、IT 系企業の SE・営業職を経て1996年入社。2002年から現職。片谷社長は3代目。
吉見 弓子 京都美術工芸大学 キャリアサポートセンター 副センター長
※肩書・プロフィールは取材当時のもの
小さな薄板ばねをつくる仕事だからルールを守れる人がいい。
講座には京都美術工芸大学の建築学部、芸術学部の3年生約40名が出席。講師として、自動車などの精密機械に欠かせない「薄板ばね」をつくる業界トップランナーの株式会社特発三協製作所の片谷勉社長が登壇した。まずは片谷社長からものづくりが好きな学生たちに、上のような問いかけがあった。
「ものづくりで、完全に自由につくるのが好きか?ルールまたは注文があるほうが好きか?」。
自分の考えをマインドマップに書き込む学生たち。その後で片谷社長は、質問の意図を明かした。
「ある会社が製品をつくり『これは売れる』と販売。ところが売れなかった。なぜだか理由がわかりますか? 売る側が自分の思い通りにつくっても、それが世の中の求めるものでなければ、相手にされないからです」。
一方、特発三協の場合は先に注文を受けてから製造・販売する。それゆえ相手の要望やルールを守ることが不可欠だ。「顧客がつくりたいものを代わりにつくる。それが当社の仕事です。だから要望やルールに応じてつくるのが好きな人に向いているんですね」。
そうした相手の要望を聞く部署が「営業」だ。特発三協にはいわゆる「相手に頭を下げて売る」営業はない。企業相手のBtoB企業ゆえ、相手先がほぼ決まっているからだ。仕事は自社ウェブサイトの作成のほか、社内で問い合わせへの対応や相談に応じるのが中心。相手と一緒にものをつくり、喜んでもらうことをうれしく思う人には、ぴったりの仕事だ。また、つくったものが評判を呼び、他の企業からオファーが入るなど、製品そのものが営業ツールとなることも多いという。
そして「設計部」は、相手の求めるものに応じて試作・完成品をつくる部署だ。「専門知識が必要ですか?」との問いに対しては、中学で学んだ数学の知識があれば十分という。「授業でCADを使われている学生さんもいますね。素質は十分です」。
また多くの学生がマインドマップに「美しいものが好き」と書いていることにも注目。「ものづくりには美しさが欠かせません。皆さんのように美的関心やセンスのある人は、ものづくり企業に向いていますね」。
マインドマップに「社長が気軽に職場に来てくれる会社で働きたい」という書き込みもあった。「私は各部門の現場に出かけて社員と話をすることが多いです。なぜならものづくりには意思疎通が一番大事だからです」。社員とざっくばらんに話すと、いろいろなアイデアが出てくる。社員の意見は積極的に反映させていく。世の中には、手を動かしながらものをつくるのが好きな人に向く仕事がある。マインドマップを使って、自分の好きや得意が、企業での仕事に具体的にどのようにつながるのかをイメージするはじめての授業は、学生たちにとって、ものづくりへの視野が大きく広がる、またとないきっかけとなった。
コラム
株式会社 特発三協製作所は
業界トップクラスのものづくり企業
1959年設立。自動車やロボットアーム、ガス給湯器などの精密機器に欠かせない「薄板ばね」。コンマ1ミリ単位の職人技が求められる精緻な製品をつくる業界トップクラス企業だ。全国の企業を相手に2000種類、月に900万個の薄板ばねを生産。その技術力の高さで、東欧、アジア、アフリカなど国内外からの研修・視察も多い。