インタビュイー

宮沢 晃一朗さん 営業部 次長
京都出身の49歳。入社23年。「日々新しい課題に頭を使って取り組めるのが営業のおもしろさ。未来志向で不安なく長く働ける会社です」

信濃 和磨さん 営業部 営業マネジメント課 主任
兵庫出身の25歳。経済学専攻。ゲームが好き。「AIなどいち早く時流を捉え、企業戦略に関わらせてもらえる。経験を積めるのがうれしいです」。

櫻井 颯斗さん 商品管理部 商品管理課 主任
静岡出身の24歳。就職イベントで美佳さんに出会い「おもしろい人だな」と感じて、キンキへ。「意見を聞いてもらえ、本音で話ができる。働き甲斐のある職場です」。

長谷川 美佳さん 営業部 営業マネジメント課 課長
京都出身の29歳。看護師として京大病院の小児科勤務の後、2022年にキンキ入社。父は代表取締役の長谷川哲也さん。
※肩書・プロフィールは取材当時のもの
ベテラン社員松本さん その知見をAIに集約
業務で疑問を持ったり、お客さまへの応対で迷ったり。そんなとき、頼りになるのはベテラン社員の存在だ。しかし、ベテラン社員が忙しく、すぐに相談できないということが少なくない。そんな現場の悩みから生まれたのが、社内で活用されている業務アプリ「AI松本さん」だ。
営業40年のベテラン、松本さんが培ってきた知見をもとに、社内で業務アプリを構築。社員が質問を入力すると、過去の判断や考え方を踏まえ、それぞれの顧客に応じた対応案が提示される。まるで松本さんに、その場でメール相談しているかのような使い心地だ。
開発した宮沢さんはこう話す。
「もともとは社内の勉強会で、AI活用を進めていました。すると若手から『松本さんの知見を共有できたらいいのに』という声が上がり、そこからプロジェクトが動き出しました」。
現場のリアルな課題が、AI開発の出発点になっているのだ。
AIに読み込ませたのは、松本さんが直近5年間に残してきた営業報告書。そこには経験に裏打ちされた判断や、お客さまとの向き合い方が具体的に記されている。「松本さんの考え方を、会社全体で共有できる形にしたかった」と宮沢さん。個人に蓄積されていた知見が、組織の資産として再構築された。
たとえば「急ぎで対応してほしい」という要望に対して、「AI松本さん」は、製品の仕様変更による短納期対応や、素材変更など、複数の選択肢を提示しながら、ゴム・プラスチック加工品の専門商社として、最適な提案を探る。その判断に至るプロセスまで、教えてくれるのが特徴だ。今後は、松本さんの電話対応の記録もデータに加え、さらに精度を高めていく予定だという。

AI松本さんのモデル
営業部 営業開発課
シニアエキスパート 松本登さん
京都府出身の63歳。この道40年の大ベテランだ。「AIモデルになれてうれしいです」とほほえむ松本さん。「私の経験や知見が完璧とは思いませんが、若い人に参考にしてもらえれば、なによりもうれしいです」。
業務改善にアプリが活躍 若手の意見を取り入れる
こうした取り組みは一つではない。キンキでは入社2年目の若手社員たちが現場の課題を起点に、多様な業務アプリをつくっている。
営業マネジメント課の信濃さんが開発したのは、問い合わせ対応をサポートするアプリだ。「ゴムと樹脂の違いは?」「この部品に最適な製品は?」といった製品構造に関わる質問に対し、製品資料やベテラン社員の知識をもとに回答を導く仕組みで、「ゴム博士」と名づけられている。電話対応中に、「ゴム博士」を参照すれば、誰でも一定水準の回答ができるようになり、対応のレベルも上がったそう。
一方、商品管理課の櫻井さんは、在庫管理の業務フローを見直し、入力作業を簡素化するアプリを開発した。複数工程に分かれていた作業を一つにまとめることで、入力ミスの削減につなげた。「現場で使う人がアプリを自作するからこそ、使いやすい形になる」と櫻井さんは話す。
信濃さんと櫻井さんは、いずれも入社2年目。まだ新人ではあるが、自分たちの「こうしたらいいのに」という感性を実務に活かしている。
「自分のアイデアが採用され、形になる環境は魅力的で楽しいです」と信濃さん。櫻井さんも「意見を出すと、実際に会社が変わっていくのでやりがいを感じます」と話す。
これらの背景にあるのは、社員の声を起点に仕事を改善していく社風だ。現在、結果として業務の効率化が進み、残業は月10時間程度に収まっているという。
社員が課題を見つけ、自ら解決する。その積み重ねが、キンキの社風をさらに深化させている。

背景にあるのは日常的な対話の積み重ね
キンキで、社員が自らアプリをつくる文化。その背景をつくった一人が、営業マネジメント課で課長を務める長谷川美佳さんだ。先ほど登場した信濃さんと櫻井さんの採用にも関わっている。美佳さんは、もともと看護師として大学病院で勤務していたが、2022年にキンキへ入社した。そのきっかけは、父である代表取締役長谷川哲也さんの「入社してほしい」という言葉だった。
「看護師をしていたこともあり、最初は継ぐ気はありませんでした。でも、コロナ禍の危機感と会社の存続を考えて入ることを決めました」と美佳さん。
入社後すぐに総務と採用を担当。信濃さんと櫻井さんをはじめ若い世代の入社が続き、社内の雰囲気も大きく変わっていったという。「若い人が増えたことで、会社に新しい空気が生まれました」と振り返る。
会社の可能性を引き出すために、まず美佳さんは「若手社員向けのAI勉強会」を始めた。
「私が入社する前から哲也社長はトップダウンで、率先してリーダーシップを発揮するタイプでした。まず若手社員向けにAI勉強会を開催したところ、彼らが率先して楽しみながらアプリ開発に取り組む姿が見られました。ただ、若手が成果を出す一方で、社内にはジェネレーションギャップもありました。そこで、ベテランの経験値と若手のITスキルをAIに落とし込み、全社で共有できないかと考え、アプリ開発コンテストを企画したのです。コンテストで形になった現場のアイデアを目の当たりにした社長が、『現場にはこんな可能性があるのか。これからは口を出さずに現場に任せてみよう』と、大きく意識が変わりました」。
美佳さんが企画した、AIアプリ制作の「社内コンテスト」は、各課の、現状への問題意識から立ち上げているのが特徴だ。課ごとにアプリを開発し、全社で投票して評価する仕組みをつくった。優秀賞には「レストランでの豪華食事代金」を支給。全4課が参加し、現場の課題をもとにした多様なアイデアが形となった。
「コンテストに参加した課のメンバーたちは『すき焼きにするか、焼肉にするか!』と、食べたいものを目標にみんなで盛り上がって、がんばっていたようです」と美佳さん。この取り組みが、のちの「AI松本さん」へとつながっていく。
AI勉強会から社内コンテストに始まる流れは、めいめいが業務改善アプリのブラッシュアップを続ける現在へとつながっている。各人の士気の高まりを通じて、美佳さんは会社の可能性を実感しているという。
「一人ひとりが課題を見つけ、解決しようとしている。これからも彼らの意見を起点にして、その力を引き出したいと思っています」。
では、こうした「社員の意見を起点にする」文化は、どのように育まれてきたのか。キンキでは、日常的にコミュニケーションを重ねる機会が多い。毎月の食事会や全社行事を通じて、部署を越えた対話が生まれている。
「食事の場での会話も含めて、意見を言いやすい関係性ができていると感じます」と美佳さん。日常の積み重ねが、課題を共有しやすい土壌をつくっている。
社員たちは親しみと尊敬を込めて長谷川さんを「みかさん」と呼ぶ。「まずはやってみよう」という姿勢で、若手の挑戦を後押しする存在だ。
「入社して、私自身この会社のおもしろさに気づきました」。
キンキを訪れると、社員全員が立ち上がってあいさつをしてくれた。そのあたたかい応対の背景には、日常的な対話を重ねる土壌がある。社員一人ひとりが主体的に動き、ベテランの知恵が共有され、そこに若手の発想が加わっていく。その積み重ねが、挑戦を仕組みへと育て、新たな価値を生み出し続けている。



