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進々堂

進々堂

どんな仕事も、続ける原動力は「好き」のチカラ

京都で12店舗を展開する老舗ベーカリーショップ「進々堂」。食について学ぶ大学生2人が、3代目・続木創社長に、パン業界のおもしろさについてインタビューした。

インタビュアー

髙野珠由

髙野珠由 立命館大学 食マネジメント学部食マネジメント学科3年生

水崎葵 立命館大学 食マネジメント学部食マネジメント学科3年生

インタビュイー

続木創

続木創 進々堂 代表取締役社長

※肩書・プロフィールは取材当時のもの


100年以上の歴史を誇る京都を代表するベーカリー「進々堂」。率いる続木創社長は24歳のときにミシガン州立大学で、最先端の技術やフードサービスを学ぶ。

帰国後はパンの製造、店舗連営、商品開発、広報、工場、食品衛生管理と業務すべてに携わった。大量生産・大量流通の波に乗り年商170億の企業に成長するが、全国規模のメーカーとの競争に負け、倒産危機に陥った。

そのとき続木さんは46歳。社長になり、大量生産の工場を売却して規模を縮小し、直営店と業務用パン販売に特化する形で再スタートをきったとき「進々堂には自分が食べたいと思うパンは1個もなかった」という。始まりはそこからだった。

ーー 続木さんが社長になって「自分が食べたいパンを作る」にあたり、どんな基準で味を決めているのでしょうか?

祖母、つまり創業者の妻・ハナがいつも語っていた言葉のひとつが「混じりけのないおいしさ」。素材の美味しさをシンプルに感じられる、引き算の発想です。

もうひとつが「火通りのおいしさ」。おいしいパンは窯に入れた瞬間、生地にスーッと火が通るんです。

これら2つはいまだに進々堂のパン造りの理念になっています。素直な素材を素直な製法で、という原点に立ち返り、それからはずっとパンは職人による手作りです。自分がおいしいと思うパンでなければ情熱は注げません。

ーー海外での経験はどう活かされていますか?

私がアメリカで学んだのははるか昔ですが、パンを主食とする人々、その食文化は、今でも日本人とはまったく違います。

小麦は農産物。フランスではその年、その地方で収穫した小麦に合わせてパンを焼く。日本のベーカリーは反対で、求める味に合わせて小麦を選ぶ。こういった文化の違いを知るのも仕事の種になりました。
 
ーー進々堂のパンが長く支持されている理由をどう分析されますか?

パンにも味覚にも流行があり、消費者は飽きやすい。3年前のパンの味はもう古いということもあります。私たちは下りのエスカレーターを登っているようなもの。勉強し続けなければすぐに下に落ちてしまいます。

私が社長になってからは毎年、社員を連れてアメリカとフランスへ視察に行っています。アメリカではビジネスのアイデア、フランスではパン造りの原点とその進化を社員たちと学びに行きます。
 
ーー2021年、全国のパン消費額ランキングは京都府が1位ですね。

京都の人たちはパンが大好き。でも本物を見る目をもった厳しいお客さまでもあります。そういう京都の人たちの生活になくてはならない「日毎の糧(デイリーブレッド)」を毎日焼くのが進々堂の使命。父はよく「パン屋は都会の農民」と話していました。
 
ーー他社との差別化はどうされていますか?
 
鋭い質問ですね。他店の動きをチェックするのはもちろんですが、一番大事にしているのは自社のパンと毎日向き合うこと。

私は毎朝の工場巡回と試食を欠かさず続けています。工業製品とちがい、気候や小麦粉の状態により品質が日々変化します。毎日とにかく目をこらして自社のパンを見て調整する。もちろん商品開発にも力を入れていますが、安定した品質のパンを提供し続けることで会社の信頼とブランド力を築くことが、差別化の原動力と考えています。

 
ーー「好きなことを仕事にすべきではない」という意見を聞きますが、続木社長はパンがお好きなのですね。

パンを食べるのも好きですが、食文化、店舗運営、市場分析、経営戦略などパンにまつわるすべてにおける勉強が好きです。大変だけれど、ベーカリーの社長は楽しいですよ(笑)。

私は「好きなことでないと、仕事を続けるのは難しい」と思います。入社前からその仕事を好きである必要はありませんが、知るにつれてだんだん好きになると、仕事が続きます。その仕事に対する探究心が自分を成長させ、その成長の実感こそが仕事を長く続けるモチベーションになります。

 
ーー今回取材させていただいた四条鳥丸「ルボンヴィーヴル」はパリのビストロのような雰囲気でとても素敵です。

ここは新しいブランドとしてスタートしました。実は、ルボンヴィーヴルで扱っているのは冷凍パン。進々堂は冷凍パンを製造し、全国のホテルや飲食店に卸す事業もおこなっています。いわば、進々堂の冷凍パンのおいしさをお客様に知っていただくためのモデルショップなのです。一般のお客さまにはフランスの家庭料理やワイン、チーズをカジュアルに楽しめる新しい食体験を提案しています。
 

ーーパンの流行の移り変わりについてはどのようにとらえておられますか? 

流行を追いかけるというよりは、食生活の変化や文化的なトレンドを先取りすることが大切です。

例えば先日発売した打田漬物さんとのコラボ商品「柴漬けカレーパン」と「すぐきピロシキ」は、京漬物の新しい可能性を発信したいという打田漬物さんの情熱に共感して、「新しいけど懐かしい」をコンセプトに開発しました。「漬物パン」が新たな食文化として定着するようにスタッフみんなでがんばっています。
 
ーーインタビューを終えて

髙野: 消費者の立場では知り得なかったお話を聞くことができ刺激になりました。移り変わりが激しい時代、京都のべーカリー業界でトップレベルに立ち続けている理由は、味や製法に妥協しないという情熱があるからこそなんですね。これからはパン屋さんや食品店を見る目が変わりそうです。
 
水崎: パンの歴史や食文化、業界分析など幅広いお話をお聞きし、勉強になりました。社長というと製造現場から離れて経営をされているというイメージがありましたが、続木社長はみずから毎日パンを試食されているという事実に驚きました。『好きなことを仕事にしないと続かない』という言葉には納得しました。