製造系 アイデアが光る仕事手に職がつく仕事 京都ビスポーク(株式会社タカハシ)
オーダーメイドスーツで、働く人の心のベクトルを上げる。
会話がつくる「その人に一番合う」スーツ
扉を開けると壁一面を埋めつくすように豊富な服地が並んでいる。その一点一点が、大手生地商社出身の髙橋平さん(京都ビスポーク代表)が、こだわりを持って厳選入荷したものだ。
店名の由来は「be spoken」。
「お客様と話しながら、その人にとってベストなスーツをつくる」願いが込められている。
「弊社のオーダーはフィッターのカウンセリングから始まります。その人の職業、習慣、着る環境などを入念に聞き、生地の色柄やスーツのデザインを一緒に決め採寸します」。
ビスポークの「フィッター」とは、お客様のスーツづくりの、いわばナビゲーターだ。
会話から相手の趣向も引き出し、着るシチュエーションに相応しいものを提案、そこから細部まで丁寧に採寸して縫製する。それが「お客様の身に、きれいに合ったスーツをつくる秘訣であり、オーダーの醍醐味」と髙橋さんは話す。
驚くのは、こうした手間をかけたスーツが既製品価格という点だ。通常、オーダースーツなら、安くても1着10万円~。その半分のプライスで提供可能なのは、髙橋さんが歴代の理念を継承し、進化させてきた姿勢にある。
京都ビスポークの起源は1950年、仕立て職人だった髙橋さんの祖父・源治さんが紳士服仕立専門店を立ち上げたのが始まり。
1975年に父の代で法人化、当時は街の中心と郊外では服装に格差があったそう。
「上質な服を、誰にでも公平に適正価格で提供したい」。創業からの丁寧な仕立ては先代でブラッシュアップ、京都北部を中心に、上質なオーダースーツ販売店を増やし業績を伸ばす。
しかし、90年代のバブル崩壊や量販店の進出で、髙橋さんが継いだときは厳しい状況だった。漠然と家業を継いでいた自分を改め、髙橋さんは根本から自身の職業を見直した。
「いい服を着ると、心のベクトルが上がって自分に自信がつくんです。この素晴らしい実感を提供することが、私たちの仕事なんだと気づきました」。
こうして先代の理念の大切さに気づき、新たなコンセブトで、2010年に京都ビスポークを立ち上げた。
コネクションを駆使し、生地の質は落とさず、腕のいい職人が縫製。心を込めてフィッターがナビゲートした値頃感があるスーツは、幅広い層の心を掴んだ。
現在、オーダースーツのリピート率は9割、京都に2店ほか、大阪・堂島、東京・銀座に各1店と、堅実な事業を展開する。
人が喜ぶことが嬉しい人、大歓迎
京都ビスポークでは、女性の「フィッター」の活躍も増えてきた。
女性は人によって体のラインが大きく違うので、オーダーメイドの需要が高いのだ。また、身ごろはピンクで襟の色は白、などオシャレを楽しめるオーダーシャツも女性には人気がある。
「人が喜ぶことがうれしい」と思う人に向いている。
「働く人を幸せにし、応援するのがスーツ。お客様と対話し、ものづくりをする。AIには絶対にできない仕事です」。
オーダースーツができるまで
①カウンセリング
まずは顧客の好みや用途をじっくリヒヤリング
②服地を決める
用途や着るシーンに合わせてアドバイス。裏地や釦も提案
③採寸・デザイン決定
細部にわたる採寸で身体の角度やクセを型紙に反映
④縫製
国内一流ファクトリーの職人が縫製、基本は総毛芯縫製
⑤フィッティング
身体にジャストフィットするように調整
⑥完成
スーツで人を幸せにできるのがフィッターです
フィッターとはオーダースーツをフィットさせる人のこと。英語でスタイリストの意味もある。役割は幅広く、お客様の要望を聞き、提案・解決に導く「カウンセラー&コンシェルジュ」、そして一番重要な「採寸」を担う。探寸の正確さがスーツの価値を左右するため、花形といわれるポジションだ。
お客様とのやり取りではこんな事例も。短身肥満型の中年男性の初オーダー。一緒に店に来た娘2人から「お父さん、見違えた!そのスーツなら足が長く見える」。翌週そのお客様から2枚目の注文が。
着る人を幸せにするスーツ。プロデュースする側にとっても、心満ちる仕事だ。