物理、化学、機械工学、情報――幅広い好奇心があって、ものづくりをしたい人に向いている！

※肩書・プロフィールは取材当時のもの

「薄板ばね」で業界トップクラスに

兵庫県尼崎市にある特発三協製作所。創業から68年、自動車や家電などあらゆる機械に使われる「薄板ばね」を製作する、業界トップクラスの企業だ。

薄板ばねとは、その名の通り薄い板の形状をした「止める」「押さえる」「抜けなくする」「引っかける」といった機能を持つ金属部品。携帯電話や自動車、パソコンなど、さまざまな製品のなかに組み込まれている。小さいながら大きな役割を担っているのだ。

 
特発三協のHPを見て「おもしろそう」と興味をもち、同社を訪れた宮崎さん。薄板ばねが、指先に乗るほど小さなサイズまであることに驚く。

「すべてオーダーメイドです」と片谷社長が話す。扱う薄板ばねは約2千種類。用途ごとに形や大きさが異なり、ミリ単位の小さなものから手のひらサイズまである。厚さは0.05～2ミリまでがほとんどで、素材はステンレス、特殊鋼など数種類ある。ばねの抵抗は、素材や厚さ、重さだけでなく、熱処理などの加工ひとつでも変化するそう。その特性を熟知して「消音」や「速度調整」「クッション」など、顧客が望む機能を持つ製品を作り上げるのが、特発三協の仕事だ。

試作・開発の部門を見学した。専用ソフトのCADで設計し、ワイヤー放電加工機を駆使して金型を作成、試作品ができあがる。8つの金型を組み合わせて薄板ばねの形状ができあがる様子を見て、「まるで、パズルのピースのようです」と感動する宮崎さん。

片谷社長は解説する。「ものづくりに必要なのは、力の加減や角度、残留応力(元に戻る力)、熱伝導、粘度など物理や化学、機械工学を網羅する知識と綿密な計算。そしてこれらの知識を統合するのは技術者です」。
 
社員の7割が国家資格の金属ばね製造技能士、4割が金属熱処理技能士。そんな腕ききの職人たちが、特発三協製作所には揃っている。

生活を支えるあらゆるものに薄板ばねは使われる

前述した試作や、金型づくり、量産は別々の会社が分業するケースが多い。しかし、特発三協の強みは、自社で「試作・開発」「金型製作」、そして「量産加工」までできることだ。

量産加工の工場では加工機械が40台稼働している。「1台が3千万円」と聞き、驚く宮崎さん。なんと1日あたり5万個も量産できる機械もある。

「バイクや自動車、家電、太陽光パネル、温度センサーなど、生活を支えるあらゆるものに薄板ばねが使われています。このため迅速かつ安定供給が不可欠なのです。
そのための体制を整えています」と、片谷さん。

機械が次々と薄板ばねを生み出す様子を見て回りながら、宮崎さんは気づく。「若い人が多いです。みなさんすごくオシャレですね」。

社員の平均年齢42歳。入社後は設計から始まり、実務を習い覚えていく。
「一人前になるには、約3年かかります。感覚ではなく、全体を見る目を養うことが大事なんです」。

特発三協が優れているのは製品だけではない。毎年経営企画書を作成し、経営理念や方針、品質管理や利益情報を社員と共有する。「社員は歯車ではなく頭脳」と考える指揮官・片谷社長のもと、皆が製品力を上げるポテンシャルと、やりがいがある。見学を終えた宮崎さん。「ばねを作る工場は初めてでしたが、すべてに学問と理論があり、おもしろさを肌で感じました。私のように幅広い好奇心がある人は、実はものづくりに向いている。製造業に、そんな発見ができたのも大きな収穫でした！」。
 

ウェーブワッシャー設計サイト

ウェーブワッシャーとは、波打たせた円環状の薄板のこと。あらゆる製品に広く利 用されている。特発三協は設計に必要な過重計算ができるサイトを開発。必要な項 目に数値入力するだけで適正な材質や大きさ、厚さ、たわみ具合を判定してくれる。 業界初の、画期的な試みだ。

[ウェーブワッシャー設計サイト]