インタビュアー
中田美帆 京都産業大学 経済学部 3年生
西辻優華 京都産業大学 経済学部 3年生
インタビュイー
佐藤好美 小川珈琲株式会社 管理部人事課
兵庫県宝塚市出身。関西大学文学部卒。中高生時代から放送部に所属し、「食」を自分の言葉で発信したいと小川珈琲に就職した。
※肩書・プロフィールは取材当時のもの
その人の適性を見極め、配属先まで考えて採用する
今回、小川珈琲の人事課を代表して応対したのは入社3年目の佐藤好美さんだ。
人事課は、社員の採用だけでなく、入社後の研修プログラムやインターンシップに関わるなど、幅広く「人の成長」に携わる部署だ。
「アルバイトと正社員の違いは何ですか?」という質問に佐藤さんはこう答える。
「小川珈琲は全従業員のうち約150名が正社員で残りがアルバイト・パート社員です。仕事に責任を持つのは共通ですが、社員のほうが責任や裁量の範囲が大きいですね。裁量が大きいと自分で決められる範囲が多いので、やりがいもあります」。
続いての質問は「小川珈琲は多様性と個性を尊重するとお聞きしました。多様性をどんな風にとらえておられますか?」。
「会社には、いろんな強みのある人が集まっています。たとえば私の場合、『人前に立って話せる』ことが強みです。でも書類作成が得意な人もいます。いろんな強みと得意があって、それぞれ補い合って仕事が成立しています。それが企業における個性と多様性ではないでしょうか」と佐藤さん。
個性と多様性――。大西ゼミでゼミ長を務め、人を束ねた経験のある中田さんに特に響く言葉だった。
大学3年生が気になるのは、選考過程と採用の方針だ。佐藤さんは率直に教えてくれた。
「新卒採用の際は、書類選考、面接、グループ面接など、5回は選考を行います。その過程で、その人の特性を知り、どんな部署に向いているかを考えます」。
選考の時点で、すでに部署まで考えていることに学生は驚いた。しかし佐藤さんは社員が輝くためにはミスマッチを防ぐ必要がある、と続ける。
「営業、開発、製造、品質保証、人事……。いろんな部署がありますが、その人の適性を丁寧に見て配属を決めるほうが、お互いにとって居心地がよくなると思うのです。もちろん採用後に、内定者研修などで部署は変わることもあります」。
選考回数が多いと、人事課からすると「仕事が増える」デメリットがある。しかしそれを上回るメリットを大切にしていることが、よく伝わってくる。
空間・体験も含めた「本物の価値の創造」を目指す
小川珈琲には「社員全員が珈琲職人であれ」というスローガンがある。これについて「コーヒーが好きでないと社員に向きませんか?」とカフェでアルバイトをする西辻さん。
それに対して、「最初からコーヒーが大好きという社員は半分くらいです。日々コーヒーに触れていると自然と興味や関心が湧いてきて、どんどん好きになっていきます」と佐藤さんは微笑む。
実は、佐藤さん自身もコーヒーの知識はゼロだったが、入社後に知識と経験を積み、自分の実感から味の違いを表現できるようになってきた。
社内にはドリップステーションやトレーニングルーム、自由にコーヒーを飲めるサーバー、飲み比べの勉強会などもあって、社員の誰もが勉強ができる。
また一定の通信教育には補助があり、「社員の自律的な成長を目指して会社が応援しています」。その姿勢があるからだろう、廊下にはバリスタなど大会の賞状がずらりと並ぶ。
創業当初は品質の高い「本物」の提供を目指していた小川珈琲。今はコーヒーというモノを越え、空間や体験も含めた「本物の価値の創造」へと企業理念をとらえ直している。
たとえばカフェの空間デザインにもその思想が現れる。「コーヒー文化を未来へつなぐ挑戦」を続けている企業なのだ。
取材後、学生たちは「人の適性を見る姿勢を尊敬します」「社員の成長を重視しているのが素晴らしい」。同社の「人」に対する考えが伝わる訪問となった。
ミニコラム
小川珈琲株式会社とは
1952年に創業したコーヒーの製造会社。理念は「私達は珈琲職人として、未来をつなぐ本物の価値を創造し、真心を持ってお届けする」。
珈琲文化を未来につなぎ、コーヒーを通して持続可能な社会に貢献していくことを目指す。さまざまなコンテストで優勝や入賞したバリスタを擁することでも知られる。